【コンサート開催録】2021.8.1 鐵百合奈さん

6月のコンサートの後、すぐに8月の公演が決まり、
途中2回の休憩(各10分)を挟んだ2時間半にも及ぶプログラムが提示されました。
当日は猛暑のなか、お客様には体調を万全にしてお越しいただき、無事開催することができました。

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プログラム

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第17番 二短調「テンペスト」Op.31-2
ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲 第2巻 Op.35-2
ブラームス:ピアノ・ソナタ 第2番 嬰ヘ短調 Op.2
ラヴェル:夜のガスパール
ブラームス:8つの小品 Op.76
シューマン:ピアノ・ソナタ 第2番 ト短調 Op.22

第1部

ベートーヴェン(1770-1827):ピアノ・ソナタ 第17番 二短調「テンペスト」Op.31-2 (1802-03年)
ソナタ第16番、17番、18番は作品31ー1,2,3として、ほぼ同時期に並行して作曲された。ベートヴェンが「自分はこれまでの作品に満足しておらず、これからは全く新しい道をゆくつもりだ」と言ったのは第17番あたりからではないかと考えられており、全曲を通して劇的で大胆な楽想になっている。17番の愛称「テンペスト」はベートーヴェンの弟子のシントラーによって生み出された逸話(シェークスピアのテンペスト=嵐)であるとされる。

特に有名な第3楽章の無窮動的な音楽を、鐵さんの演奏は息をもつかせぬ勢いで、繊細さと迫力が交互に押し寄せる美しいものでした。

ブラームス(1833-1897):パガニーニの主題による変奏曲 第2巻 Op.35-2 (1862-63年)
拠点をウィーンに移したブラームスに、友人でピアニストのタウジヒがパガニーニの主題(無伴奏ヴァイオリンのためのカプリス第24番 Op.1)で変奏曲を作らないかともちかけ、14の変奏からなる練習曲を2冊作曲した。各変奏は技巧的に至難ともいえる曲で、ブラームスは「精巧な指のためのピアノ練習曲」と記した。クララ=シューマンは「”魔術師の変奏曲”であるとともに”精神の大饗宴”であるが、人の腕を越えた作品である」と表した。

第4曲はイ長調、第12曲はへ長調、と長調で歌曲のような美しさです。他の変奏曲は全て原曲と同じイ短調です。鐵さんのピアノは、超絶技巧をたたみかけるように一気に、そして鍵盤を縦横無尽に使い、いったいどうやって弾いているのか目にも止まらぬ速さで、それでいて音楽的にとても魅力のある演奏でした。

第2部

ブラームス:ピアノ・ソナタ 第2番 嬰ヘ短調 Op.2 (1852年)
ブラームス19歳、作品1のピアノソナタ第1番より前に作曲された作品で、クララ=シューマンに献呈されている。
  第1楽章:アレグロ・ノン・トロッポ・マ・エネルジコ
  第2楽章:アンダンテ・コン・エスプレッシオーネ
  第3楽章(スケルツォ):アレグロ
  第4楽章(フィナーレ):ソステヌート~アレグロ・ノン・トロッポ・エ・ルバート
各楽章の主題は楽章間を越えて、次々と展開する試みがなされている。ベートーヴェン風の強烈な第1楽章。ミンネ歌人(ドイツの吟遊詩人)の「冬の歌」に霊感を得たといわれる第2楽章。その第2楽章の主題を使ったダイナミックなスケルツォの第3楽章。第4楽章の序奏は、ベートーヴェンの「皇帝」(1809年)やバッハから影響を受けているよう。展開部は情感が次々と変化し、リズミカルなメロディや和声がシューマン風に感じられるところもあるが、すでにブラームスらしい和声が聴こえる。

めまぐるしく変化する主題の変形や転調に加え、鐵さんにしか表現できないようなテンポのゆらぎ(アゴーギグ)や音の強弱(デュナーミク)に、惹き込まれました。

ラヴェル(1875-1937):夜のガスパール (1908年)
詩人ベルトランの64篇の詩集「夜のガスパール」から奇怪で幻想に満ちた3篇の散文詩をもとに作曲された。「オンディーヌ(水の精)」「絞首台」「スカルボ」はピアノの至難な技巧を要求し、ラヴェル自身、「(当時難曲の代表とみなされていた)バラキレフ作曲のイスラメイよりも難しいピアノ曲を書く」と宣言したといわれている。

ラヴェルは母親の出身であるバスク地方で生まれ、幼いころは母の語る昔話をじっと聞いていたことから、詩をもとにして作曲するという発想を得たのかもしれないと思いました。

第3部

ブラームス:8つの小品 Op.76(1871,1878年)
ブラームスは「パガニーニの主題による変奏曲」(Op.35)から約15年間ピアノ独奏曲を書かず、その間にピアノ様式を、形式ばったものや変奏曲のような構成的なものから、感じたままを率直に表現するようになった。「鐵さんによる2021.6.19コンサート開催録(こちら)」にも記載してあります。

シューマン(1810-1856):ピアノ・ソナタ 第2番 ト短調 Op.22(1833-1838年)
シューマン最後のソナタ(第3番Op.14より後の作品)は、ライプツィヒの商人で芸術家のパトロンとしても知られたカール・フォークトの妻でピアノのヴィルトゥオーゾ(名人・達人)といわれたヘンリエッテに献呈された。
  第1楽章:so rasch wie möglich(独)できるだけ早く
  第2楽章:アンダンティーノ
  第3楽章(スケルツォ):Sehr rasch und markiert(独)きわめて急速に明瞭に
  第4楽章(ロンド):プレスト
自由な変奏や幻想的な創作を得意とするシューマンが、数年にわたり修正を加え続け、構成のしっかりしたソナタに書き上げた。4つの楽章の内の3つの楽章に「速く」という指示があり、速度を駆り立てるような華々しい演奏を要求される。対照的に第2楽章は、歌曲(未完の11の歌曲集)の「秋に」を使った変奏だが、天にも昇るような美しい曲である。

シューマンのソナタ・第2番と第1番は鐵百合奈さんの2枚目のアルバムに収められているので、ぜひそちらもお聴きください。鐵さんを通してシューマンの起伏(抑揚)の激しさと優しさが肌で感じられる演奏だと思います。

当日の鐵さんの演奏は、正気とは思えないほどの大曲ばかりのプログラムを、聴衆がいることに気づかず取り組んでいるかのようなコンサートでした。一つひとつの曲への没頭、集中度も高く、とても濃くて不思議な時間でした。そして、お客様もすぐに理解され、ものすごい集中力で最後まで聴いてくださいました。

(参考文献『最新名曲解説全集 第15,16,17巻』音楽之友社)

ご来場のお客様より

お客様からの感想をご紹介いたします。

生のピアノの演奏会は初めてでしたが、
ピアノに包まれているような感じで、感激しました。

鐵さん、大変な曲ばかりでしたが、すごい集中力で感激しました。

とっても素敵なお家と素晴らしいコンサート‼️
贅沢な時間を過ごさせていただきました😊

この金額であんなに濃いプログラムを拝聴させていただき
主催のサロン様と奏者の鐵さんには感謝です。

鐵百合奈さんの力強くて丁寧な演奏、素晴らしかったです❣️
それにしても素敵なコンサートホール❣️

久しぶりにテンペストとシューマンを聴き彼等の細やかな心の変化を
見事に表されており感動しました。
ブラームス も若きし時と円熟期の曲で作風の変化を楽しみました。
ラヴェルも久しぶりで色彩豊かでした。
本当に素晴らしく楽しめたリサイタルでした。

百合奈さんの世界にどんどん惹き込まれ、最後のシューマンでは、
百合奈さんの気迫に飲まれました。

この日、鐵さんはベートーヴェンやシューマンやブラームス、さらに、ラヴェルの生きた時代まで遡り、作曲家と対話をしながら私たちに演奏を届け、そして、ピアナリウムに戻ってきたのかもしれないと思いました。

終演後はいつもの鐵さんらしい様子で、
CDをお買い上げくださった方々への丁寧なサイン会が行われました。
皆さん、「良かった、よかった」とご満足されながら帰られました。

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