Pianariumこけら落とし第2弾(4月11日黒川侑さん×佐藤彦大さんのコンサートの際)に、日高さんがPianariumとGROTRIANの響きを大変気に入ってくださり、8月の公演が決まりました。
日高志野さんを初めてお聴きしたのは、
チャイコフスキーのピアノトリオ「偉大な芸術家の思い出に」の公演でした。
ヴァイオリンの黒川侑さん、チェロの伊東裕さんと共演され、50分もの大曲をものともせず、勉強されてきたロシアの音楽の逞しさと豊かな表現に圧倒されました。さらに、チェロの堀江牧生さんとのベートーヴェンのヴァイオリンソナタ「クロイツェル」を中心としたプログラム、こちらもパワフルな公演でした。
ところが、リハーサルで改めてお会いすると、華奢でいらっしゃるのに驚きました。
その身体を全部を使って一音一音をどう出そうか、ピアノのタッチと音色とペダルを確認しながら、気になるフレーズ、その一音にまでこだわって弾く姿に感動しました。
プログラム
ヘンデル=ケンプ: メヌエット ト短調 HWV434
ショパン: バラード 第1番 ト短調 作品23
バッハ=ブゾーニ: シャコンヌ BWV1004
ラフマニノフ: 前奏曲集 作品23より 第4番,第5番
ラフマニノフ: 楽興の時 作品16
1. Andantino
2. Allegro
3. Andante cantabile
4. Presto
5. Adagio sostenuto
6. Maestoso
前半
ヘンデル(1685-1759)=ケンプ(1895-1991): メヌエット ト短調 HWV434
ヘンデルのクラヴサン組曲 第2集 第1曲のなかのメヌエットを、ピアニストのウィルヘルム・ケンプ(1895-1991)が美しく、しっとりした曲に編曲した。ベートーヴェンのソナタと協奏曲の全曲録音を数回行うほどのピアニストだが、第二次大戦までは作曲を多く手掛け、バッハの編曲も多数ある。
演奏会の導入にふさわしく、ロマンティックに始まりました。日高さんによる公演直前のLINE配信ではメッセージと共にBGMで弾いてくださった曲です。
ショパン(1810-1849): バラード 第1番 ト短調 作品23 (1831-1835)
ポーランドのロマン主義の詩人アダム・ミツキエヴィチ(1798-1855)は詩集「バラードとロマンツェ」を書いた。ロベルト・シューマン(1810-1856)によると「ショパンは彼の詩からバラードの着想が浮かんだ」と聞いたという。アルフレッド・コルトー(1877-1962)は、編纂したバラード4曲の校訂譜の序文で「第1番はポーランドの英雄コンラッド・ワーレンロッドによる十字軍の成就を描いた叙事詩」(ローラン・セイリエの解釈)と要約している。ショパンの中でもとりわけ人気の高いバラード第1番は、シューマンが「ショパンの楽曲の中で一番好きだ」と伝え、ショパンも「私も一番好きな曲の一つです」と伝えたといわれる。
バラードBallade=英のバラッドに由来、中世の歴史上または架空の出来事やロマン的な
物語を扱い音楽化され、通作歌曲の形をとりシューベルトの作品にも多くみられるが、
ショパンとブラームスは3部形式のピアノ曲に「バラード」の名称を使った。譚詩曲。
冒頭のレチタティーヴォ風の序奏で、日高さんが語る物語の世界にすっと入り込みます。落ち着いた静かな主題はたゆたうように繰り返しながら、中間部の希望に満ちた熱く強烈な和声となり、再び、嵐の前の静けさから劇的な結末まで大きな流れとなって届きました。
バッハ=ブゾーニ(1866-1924): シャコンヌ BWV1004 (1894)
バッハ作曲「無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第2番よりシャコンヌ」をピアノ独奏用に編曲したもの。フェルッチョ・ブゾーニはピアノのヴィルトゥオーソとして欧米で演奏を行い、晩年はベルリンの高等音楽学校の校長を務めたが、その他にも指揮、作曲、理論(音楽の美学理論)、バッハの編曲、校訂など幅広く活躍した。ブゾーニ編シャコンヌは素晴らしい曲であるためとても人気だが技巧的には大変難しい。
多くのピアニストの憧れのブゾーニ編曲のシャコンヌを、日高さんはたびたび演奏されていますが、この日も会場の隅々まで荘厳な響きで満たしてくれました。
後半
ラフマニノフ(1873-1943): 前奏曲集 作品23より 第4番,第5番(1902-03)
「鐘」の名称で有名な作品3-2(1892)と、前奏曲集作品32の13曲(1909-10)、そしてこの作品23の10曲を合わせて24曲、全ての調性を使って書かれた前奏曲は、バッハの平均率~ショパンの前奏曲作品28(1838-39)~スクリャービンの前奏曲作品11(1896)を意識して書かれた。
第4番 Andante Cantabile 左手の分三和音形にノクターンのようなロマンティックなメロディ。
第5番 Alla marcia 行進曲風のリズムが印象的。
第4番はおだやかな全体のなかに内面に高まる厚みがあり、第5番はリズムを刻みながら激しい部分もしっかりコントロールする日高さん、さすがです。
ラフマニノフ: 楽興の時 作品16(1896)
1. Andantino
2. Allegro
3. Andante cantabile
4. Presto
5. Adagio sostenuto
6. Maestoso
「交響曲第1番」の後にわずか2ヵ月で作曲され、ラフマニノフ前半の充実した作品といわれるが、直後の第1交響曲の悲惨な初演のあと、ショックで丸2年以上も作曲できないほど精神的につらい時期となる。友人で作曲家、民族音楽研究家のザタエヴィチに捧げられた。抒情的な曲と動きの速い曲が交互になっていて、演奏には超絶技巧が必要とされる。
第1曲は旅人が見た異国の古い街のよう。 第2曲は揺れ動く心の模様でしょうか。第3曲は暗く重々しく、悲しい出来事。第4曲は速く激しいパッセージが絶え間なく続きます。日高さんは最後の音のあと勢いあまってピアノのフレームに腕をかけるほどでした。
この第4曲はロシアの作曲家ニコライ・メトネル(1880-1851)に影響を与えたのではないかと思い、ソナタ「夜の嵐」を調べると、メトネルはこの作品25-2のソナタをラフマニノフに献呈したことがわかりました。
第5曲は旅人が故郷を訪ね、景色をまぶたの裏に焼き付ける様子。第6曲は人生の一大決心をオーケストラ全体で表しているかのようで、希望に満ち溢れ、終曲にふさわしい演奏でした。
(参考文献『最新名曲解説全集 第15,17巻』音楽之友社、『クラシック音楽作品名辞典』三省堂、
CD「河村尚子 ショパン:バラード」解説、『新音楽辞典 楽語』音楽之友社)
日高志野さんよりご挨拶
本日は暑い中、また世界中が大変な状況にある中、コンサートにお越しくださりありがとうございました。
本日のプログラムはヘンデルから始まり、
私の留学先でもあるロシアの作曲家、ラフマニノフまで時代に沿って演奏してきました。
いかがだったでしょうか?
(大きな拍手に応え)
アンコールはバロック時代に回帰して
ラモー作曲「鳥のさえずり」をお届けします。
と、ご挨拶をされ、
トリルの素敵なしっとりした鳥の声を聴かせてくださいました。
ピアノを離れれば気さくな方で、とても自然体です。
ロシアで研鑽を積まれてきた日高志野さんのピアノを、お客様もきっと感じてくださったことと思います。
ご来場のお客様より
お客様からの感想をご紹介します。
ヘンデルのしっとりとした曲から始まり、うっとりしました。
本当に素晴らしくキラキラした音色に、素人ながらも魅了され、一度で日高さんの大ファンとなりました。もっと聴きたいです。
日高さんの迫力ある演奏が気持ちよかったです。ロシアの大地が感じられ、世界旅行を味わいました。
さすが志野さん、特に力を込められたラフマニノフの楽興の時は嵐が迫る風景であったり、ゆったりとした空気を楽しむがごとく素晴らしかったです。
楽興の時、素晴らしい演奏で、惹き込まれました。
ラフマニノフの「楽興の時」を知ったのはほんの数年前です。しかし、6曲を通して聴いたのは日高さんが初めてです。劇的なドラマを見ているような、素晴らしい演奏でした。
前半が終わり、休憩に入られた時に、
日高さんは「ピアノがだんだん仲良くなってきた、後半が楽しみ」と嬉しそうな顔で言われていました。
後半が始まり、ピアノはより日高さんの体の一部となったようで、表情豊かに、ある時は激しく、ある時は繊細に感じられ、ラフマニノフが舞い降りたかのような演奏で、目を閉じると、ラフマニノフの顔が浮かぶほどでした。
コンサート終演後、ピアノを撫でながら「思うように奏でてくれました」と笑顔でご満足そうに言われていました。
あっという間のコンサートでもっともっと聴いていたかったっです。
日高さんのピアノを弾く顔の表情まで見えず分かりませんでしたが、凛とした姿勢の中に、内に秘めた情熱や強さ、繊細さがあるように思われ、音色は終始美しいものでした。